授業の始まりに何をするか

1.授業の始まりに何をするか

授業の始まりは、次のようにします。

全体の80%以上の生徒が、「教師に向きあい」「楽しく参加できる」活動をする。

授業は最初が肝心です。

授業の始まりで、ぐっと生徒の心をつかみたい。

「全ての生徒」が、教師と向き合い、授業が楽しいっ!と思わせるようにしたい。

これは、音楽の授業に限らず、他の授業でも同じです。

もっといえば、普通学校でも同じです。

特別支援学校の音楽の授業では、

全体の80%の生徒ができれば、

まあ合格としています。

5名生徒がいたら4名の割合です。

私は今、中2,3学年合同の、20名の生徒の音楽を担当しています。

その中で、16名の生徒が最初の活動で、教師と向かい、楽しく参加できたら、まあ合格としています。

本当を言えば、「全ての生徒(=100%)」が教師と向き合い、楽しく参加できる活動を教師は設定するのが、究極の目標です。

「全ての生徒」を目指して、教師は教材研究をしなければなりません。

しかし、一人一人の能力や障害が違う生徒の集団です。

個別に近くの教師と向き合う学習の段階の、知的障害が重度の生徒や重複障害の生徒がいます。

一対一でのやりとりではできたとしても、さまざまな事情で集団では個別に対応する必要がある生徒もいます。

そのような実態を踏まえて教師が教材と格闘し、現実にやっと到達できるのが、

「80%」

です。

私が教材と格闘し、なんとか「80%」に到達した実践が3つあります。

1.『おちたおちた』

2.拍手の授業

3.『たのしいね』

詳細は、次回に書きます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2.『おちたおちた』

この実践は、わらべ歌『おちたおちた』の歌詞を一部変更して行いました。

やりとりの仕方も変わります。

2分もあれば終わる実践です。

教師は、アカペラで歌います。♪が教師の歌の提示です。

...................................................................................................................

授業開始後、いきなり歌う。説明なし。

♪おーちたおちた かみなり おちたー あたま!

「あたま!」と言った後、わずかの間をあける(聴覚入力)。

その後、両手を頭の前へもっていき(視覚入力)、頭を触る。

そのまましばらく静止する(以下、全て同じ方法で続ける)。

子どもたちは、きょとんとしている。

気にせずニコニコしながら次へ進む。

♪おーちたおちた かみなり おちたー あたま!

何人かの子どもが頭を触る。「そう。(○○くん、○○くん)上手!」と褒める。

近くにいるTTの先生にも褒めてもらう。

♪おーちたおちた かみなり おちたー あたま!

3回同じ動作を繰り返すことで、やることを理解させる。
2回目より多くの子どもが、頭を触るようになる。
慣れてきたら、2回、あるいは1回でも可。

♪おーちたおちた かみなり おちたー おなか!

両手でおなかをさわる。
続けて、頭を触ってしまった子どもは、自分で気づいたり、TTの教師に指摘されたりして直していた。

♪おーちたおちた かみなり おちたー りんご!

子どもたちから、「ええ?」「りんご?」と声があがる。
両手でまるいものを受け取る動作をする。

教師の動作模倣をして、同じようにする。

♪おーちたおちた かみなり おちたー あたま(あるいは「おなか」、「りんご」)!

言葉を替えながら、数回繰り返す。

だんだんテンポを速くしたり、歌うキーを上げていったり、「あたま!」というタイミングをずらしたりする。

最後は、

♪おーちたおちた かみなり おちたー あたま!

「あたま!」と言いながら、おなかを触る。フェイントをする。

その後、「あたまはここだよねえ」と言って、両手で頭を触りなおす。

気が付いて頭に手をもっていく子どもや、依然おなかに手をあてたままの子どもがいる。

なごやかな雰囲気で終わる。そのまま次の活動に移る。

...................................................................................................................

| | コメント (2) | トラックバック (0)

3.『おちたおちた』は、なぜ80%に到達したのか

『おちたおちた』は、なぜ80%に到達したのでしょうか。
理由は、ズバリこれです。

原実践を修正したから。

なぜ原実践を修正する必要があったのでしょうか。
それは、

精神年齢が3歳未満の生徒もできるようにしたかったから

です。

原実践と思われる指導は、次の本に掲載されていました。

1.楽しいボディパーカッション〈1〉リズムで遊ぼう(山田俊之著、音楽之友社)

2.『小学1年生の体・音・図工・総合の指導・大好きにする技』(TOSS愛知教育サークル著、明治図書)

3.『3歳児の保育資料12ヶ月』(阿部恵編著、ひかりのくに)

(興味深いのは、「小学校~中学生の実践」「小学校1年生での実践」が、「3歳児の保育資料」にも同じく掲載されているところです。
さらにこの歌は、文部科学省発行の養護学校(知的障害)教科書『おんがく☆』にも、掲載されています。)

「3歳児の保育資料」にも掲載されているということは、

原実践の『おちたおちた』は、「3歳児」ができる教材である

といえます。

裏を返せば、

原実践の『おちたおちた』は、「3歳未満の子ども」にはできない可能性がある

ということにもなります。

私は、原実践を次のように修正しました。

  1 生徒がすることを、身体表現に絞る。
    2 歌の掛け合いをやめて、全て教師が歌う。
    3 「なにがおちた」の歌詞を、「かみなりおちた」に替える。
    4 「かみなり!」とは言わず、「おなか!」と言う。
    5 言うだけでなく、おなかを「触って」みせる。
    6 それだけではつまらない子どものために、
    原実践通り、「身体表現を連想しやすい言葉」も加える。(etc「りんご」)

これらの修正をすることで、次の効果を期待できます。

  A することが1つになり、課題に集中しやすくなる。
  B 教師が、子どもを観察しながら、「テンポ」や「間」の調整ができる。
  C (A’、B’のための便宜上の変更です)
  D 「連想させる言葉」ではなく、「体の部位」を言うことにより、
    より身体表現がしやすくなる。
  E 「動作」でも示すことで、さらに身体表現がしやすくなる。
  F できる子どもはさらに熱中するようになる。


Dの根拠としては、遠城寺式乳幼児分析的発達検査法に次の項目があります。

  1歳9ヶ月   目、口、耳、手、足、腹を指示する

Eの根拠としては、同じ検査法に、次の項目があります。

  0歳10ヶ月  身ぶりをまねする(オツムテンテンなど)


つまり、これらの修正で、次のことがいえます。

精神年齢が3歳未満の生徒も、できる可能性が広がった。

「1歳9ヶ月」または「0歳10ヶ月」の課題がクリアした生徒も、
できる可能性が出てきました。

このように修正することで、「80%」の到達する実践が生まれました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

4.『おちたおちた』は、常に80%を確保できる実践か

修正した「おちたおちた」 は、実際何%の生徒が到達したのでしょうか。

常に、80%を確保できる実践なのでしょうか。

(1)

実は、最初に、修正した「おちたおちた」を「実践」し、「記録」したのは、
「高1の生徒」に対してでした。
重度・重複学級を含む、25名の生徒でした。

4月から初めて3回目の授業で、25名中、22名の生徒が、
少なくとも「あたま!」「おなか!」「りんご!」のいずれかの身体表現をするようになりました。
「88%」です。

(2)

では、中学部ではどうだったか。

「中2,3年」の合同の授業を受け持ったときに、「おちたおちた」を実践しました。
そのときは、25名中、21名。
「84%」でした。
80%を超えました。
これらの集団も、重度・重複学級の生徒を含みます。
しかし、当時の集団については、指導にかかわった多くの同僚が、

    「こんな能力の高い集団ははじめてだ」

と口にしていました。
実際、S-M社会生活能力検査では、
25名中13名が、「5歳代」「6歳代」に集中していた集団でした。

(3)

その後、「中1,2年+中の重度・重複学級の生徒全員」

の音楽の授業を受け持ちました。
数度、授業の最初に「おちたおちた」をしました。
しかしそれでも、21名中、15名でした。
「71%」です。
ついに80%を大きく割ってしまいました。

この集団では、授業の最初に「おちたおちた」の実践をする意義が
なくなってきました。

「おちたおちた」は、ごくごく大ざっぱにいえば、
「能力の高い生徒が多い集団」には、有効な実践でした。

しかし、常に、80%を確保ではありませんでした。
どんな集団でも「常に有効な実践」など、存在しません。
生徒の実態が変われば、当然、「適さない実践」にもなります。

障害の「重度化」「重複化」は、全国的な傾向です。
その都度、生徒の実態に合わせて頭を絞らせるのも、教師の仕事の醍醐味です。

「おちたおちた」では80%に到達しなかった集団に対して、
私は、新たな教材を模索することになります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

5.『拍手の授業』

「おちたおちた」で80%に到達しなかった集団に対して、

私は、「拍手の授業」をするようになりました。

「拍手の授業」も、長くて2分で終わる活動です。

だいたい1分過ぎで終えるようにしています。

あまり長くなると、集中力がもたなくなります。

...................................................................................................................

第1時。

提示1 (拍手:タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タン)


いきなり拍手を続けてする。
拍手は速く、たくさん。

「十六分音符16個」+「四分音符1個」のイメージで拍手すると、テンポがよくできる。
最初の拍手の提示が終わったら、すばやく手を降ろす。

驚いた様子の子どもたちがいる。かまわず、次にいく。

指示2 (両手を出した後)さんはい。

        はくしゅー(拍手:タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タン)

        (両手を降ろして)ストップ!

両手を降ろすときは、「気をつけ」の姿勢をしてみせると、わかりやすい。

数人が、はやくも拍手の模倣をする。

その生徒たち一人一人にうなずきながらアイコンタクをし、

「そう。○○君(さん)、上手。」と褒める。

近くの教師にも褒めてもらう。

「『はくしゅー』するんだよ。」

実際に、拍手をしてみせながら言う。

指示1を2回程度行う。拍手の回数は増減させ、変化をもたせる。

子どもが慣れてきたら、次の指示をする。

指示3 (両手を出した後)さんはい。

          はくしゅー(拍手:タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タン)

          (両手を降ろす。少し間をおいてから)ストップ!

拍手の間、一人一人にアイコンタクトを送る。拍手をしている生徒にはさらなる笑顔で微笑みかける。

指示1と違い、両手を降ろし(視覚入力)、少し間をおいてから、「ストップ」と言う(聴覚入力)。

拍手をいまだし続ける子どもは、近くの教師にとめてもらう。

拍手をしない生徒には、近くの教師の模倣をしたり、身体補助で拍手の動きを教えてもらったりする。

指示4 (両手を出した後)さんはい。

          はくしゅー(拍手:タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タン)

          (両手を降ろす。何も言わない。)

「ストップ」の言葉を削り、動作で示す。
しばらくして、拍手がやむ。

指示5 (両手を出す。何も言わない。)

          はくしゅー(拍手:タタタタ タタタタ タタタタ タタタタ タン)

          (両手を降ろす。何も言わない。)


指示6 (両手を出す。何も言わない。)

(拍手:タタタタタタタタ タタタタタタタタ タン)

(両手を降ろす。何も言わない。)

最終的に、全ての言葉を削る。

拍手の回数は、適宜増減させて、変化のある繰り返しで行う。

半分以上の子どもたちは、言葉の指示がなくても、教師やまわりの子どもの動作を見て、集中して拍手をするようになる。

一方で、拍手をせずに様子を見たり、しばらくして拍手をやめたりする子どももいる。

その子どもたちにもアイコンタクトをしてうなずく。

なごやかな雰囲気で次の活動を移る。

...................................................................................................................

第2時。

最初に、指示2~6で、拍手をする。
(子どもの集中度が低ければ、適宜とばす。)

次に、動作を変える。

指示7 (片足を上げてみせた後)さんはい。

          あしー(足踏み:ドドドド ドドドド ドドドド ドドドド ドン)

          (気をつけの姿勢をして)ストップ!

「拍手」から、「足踏み」にする。
子どもたちから、歓声が上がる。

拍手のときと同じように、「ストップ!」「さんはい」「あしー」の言葉を削っていく。

同じように、「おなかー」「おしりー」と動作を変えていく。

...................................................................................................................

| | コメント (0) | トラックバック (0)

6.『拍手の授業』は、なぜ80%に到達したか

「拍手の授業」を実践した結果、
21名中17名の生徒が、楽しく活動するようになりました。
81%です。

「拍手の授業」は、なぜ80%に到達したのでしょうか。

レディネスがさらに下がったから。

これが理由です。

『乳幼児の音楽教育』(T.S.ババジャン著、新読者社)に、次の記載があります。

8ヶ月までに、(中略)子どもは、ことばで言われて簡単な動作―「お手手パチパチ」、「さようなら」「握手しましょう」、「どっちが大きい」―をすることができます。


「8ヶ月」までに、「お手手パチパチ」ができる。

健常児なら、おすわりができて、両手が発達する時期です。

よって、8ヶ月の課題がクリアした生徒なら、「拍手の授業」ができる可能性があるといえます。

『おちたおちた』では、「1歳9か月」「0歳10か月」を、数値の根拠としてあげました。

『拍手の授業』は、0歳8ヶ月。

よりレディネスが下がります。

レディネスが下がれば、重度の生徒もできる可能性が広がります。

実際、模倣が難しくても、拍手の動作ならできる生徒がけっこういます。

しかしこの授業は、極めて短時間がよいようです。
やって1分程度。
2分以上すると、確実にだれます。

なぜか。

能力の高い生徒があきるから

これが、主な理由です。

レディネスが下がっても、能力が高い生徒も継続して楽しめる活動がなければ、

全ての生徒が満足する授業にはなりません。

『おちたおちた』では、「頭」「お腹」だけでなく、「りんご」等の指示も追加しました。

一方、『拍手の授業』は、「足踏み」「お腹」等の「模倣止まり」です。
能力が高い生徒が楽しむための配慮が、『拍手の授業』には欠けています。

それぞれ、一長一短です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

7.『たのしいね』

『たのしいね』(山内佳鶴子作詞、寺島尚彦作曲)で、
歌と手拍子のかけあいをします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いきなり歌い始める。アカペラで。(伴奏する場合は、何も言わず始める)

♪たのしいね (手拍子)~

最後まで歌う。

手拍子の直前に、わずかに「間」を空ける。
子どもが動作模倣する時間を与える。
また目が合った子どもには、微笑みかける。

何人かの子どもが手拍子をする。
「そう。(○○くん、○○くん)上手!」と褒める。
近くにいるTTの先生にも褒めてもらう。
褒めることで、することを理解させる。

♪たのしいね (手拍子)~ 

2回目が終わる頃には、多くの生徒が手拍子をするようになる。
それでも、手拍子をしない(できない)生徒がいる。
歌詞を歌いながら、生徒のところに近づく。
両手を出して、歌詞に合わせて「手合わせ」を促すと、
喜んで手を合わせてきた。

♪たのしいね (足踏み)~ 

低い声で歌う。
伴奏をする場合は、低い音で。
歌詞も適宜替える。l


♪たのしいね (お腹をたたく)~

動作にバリエーションをつけていく。
なごやかな雰囲気で終わる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

| | コメント (0) | トラックバック (0)

8.『たのしいね』は、なぜ80%に到達したか

『たのしいね』の原実践は、
『障害児の音楽指導』(松樹偕子、黎明書房)にあります。
より具体的に実践できるよう、修正追試しました。

『たのしいね』の授業により、
21名中18名の生徒が、楽しく活動できるようになりました。
86%です。

なぜ、『たのしいね』の授業は、80%に到達したのでしょうか。
理由は2つ。

(1)手拍子しない生徒を救えるから
(2)能力の高い生徒も楽しめるから

(1)
手拍子や足踏み等の模倣ができなくても、
「手合わせ」ならチャレンジする生徒がいます。

集団の中にいられるだけで精一杯だったとしても、
教師と向き合ってならなんとか活動できる、という生徒もいます。

そういった生徒をこの活動で救うことができます。

リーダーの教師も、歌いながら移動できます。
必要な生徒の前にいき、「手合わせ」ができます。

ちなみに、「手合わせ」は、
『認知発達治療の実践マニュアル-自閉症のStage別発達課題』(太田昌孝・永井洋子、日本文化科学社)でも、
模倣のための最初の課題として、あげています。
それほど、優しい課題であるといえます。

(2)
『たのしいね』は、毎回安定して多くの生徒が活動します。
特に、能力が高い生徒が楽しんで行います。
なぜか。

音楽に乗せながら、変化のある繰り返しで行うから。

行う動作は『拍手の授業』に似ています。
しかし、「音楽に乗せる」ところが違います。
能力が高い生徒にとって単純な活動も、
「音楽が伴う」と、楽しさが倍増します。
さらに「手拍子」「足踏み」「お腹」等、変化のある繰り返しですすめるので、
集中力が持続するようです。

『楽しいね』は、歌詞も動きを引き出しています。
松樹偕子氏は言います。

歌そのものが手拍子を要求しているわけですから、とてもやりやすいのです。

ここでは、歌詞を引用できませんが、
歌詞を読むと、その意味がわかります。
全く指示がなくても、授業をすすめることができるのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

9.できなかった20%の生徒をどうするか

今年度の集団(中学部2,3年生、重度重複学級含む)では、

授業の始めに、

 1.『拍手の授業』
 2.『たのしいね』

と、続けて行っています。
一つにしぼっていません。

なぜか。

1.「拍手」なら楽しんでし続ける生徒
2.「手拍子」はしなくても、「手合わせ」なら楽しんでする生徒
の両方がそれぞれいるから

です。

「一人でも多く救いたい」
「教師に向き合ってほしい」
「楽しく参加してほしい」

これらを実現するために、
今は、組み合わせて行っています。

しかし、それでも救えない20%の生徒が確実にいます。

できなかった20%の生徒をどうするか。

この問題が、常に教師に突き刺さります。

 「全ての生徒(=100%)」が教師と向き合い、楽しく参加できる

これを目標に、これ以後の、歌唱、身体表現、器楽、鑑賞の活動で
工夫をしていくことになります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)